ドロミテ スキーで行くリストランテ 1 (2020-05-05)

ドロミテスキーの魅力のひとつは、垂直にそそり立つ大岩壁を間近に見上げながら、ゲレンデの総延長約1500km、村と村をつないでどこまでも続く広大なスキーエリアを自分の足で、しかもかなりの速さで移動する痛快さだ。標高3000m前後の山々は、世界中のどの山域とも異なる山容で、ひと言でいうなら豪快。岩壁の傾斜は強く、垂直からそれ以上、1000m以上のビッグウォールも普通で、ロッククライマーには天国のようなところだ。これらの山々は遠くから眺めるのではなく、限られた登山家だけのものでもなく、誰もが頭上の大岩壁を見上げ、見下ろし、ふところへ入り込み、圧倒され、驚嘆する。そう、この驚異の山々のすぐ足元が、ファミリーゲレンデであり村々なのだ。

ここでは、昼食はスキーでの移動中にとることになる。スキーエリアの中にある無数の山小屋や、ふもとの村、トラットリア、バル、セルフサービス、ピッツァリア、リストランテ、いろいろだ。今回は、僕のとっておきの店をお話ししたいと思う。

ラガツォイ山頂からおだやかに滑走すること30分。山小屋がひとつ、周囲にはリフトなど人工物はない。スコットーニは大岩壁の山々に囲まれた山小屋だ。ここは山小屋なのだが、全ドロミテ中で最高のステーキハウスでもある。いや、ワールドクラスのステーキハウスといってもよいと思う。このステーキを食べるために、ドロミテへやってきたという人も少なくないし、ここでの夢のような昼食は、いつまでもドロミテの思い出として記憶に残るだろう。スキー靴を履いてドロミテど真ん中の最高のロケーションで最高の炭焼きステーキを食べさせてくれるのだ。

ドロミテスキーヤーは、昼時このステーキを目当てにスコットーニ小屋へやってくるので、いつも超満員。そこで、昼前の11時15分に到着するように時間調整しながら滑る。これが非常に重要で、簡単なようで難しく、これができるなら、うまくテーブルを確保することができるだろう。間違って正午を回るようなら、匂いだけかいで帰ることになり、イタリア旅行のすべてが台無しになりかねないし、メンバーからの信頼や、ほかにも大切なものを失うことになるだろう。