タイの水上ホテル (2017-12-01)

 バンコクより車で 4 時間。さらに東南アジア特有の細長い小舟にスーツケースごと乗り、川をのぼること 30 分。タイ中部サイヨーク国立公園の一角を流 れるクワイ川の水上ホテルに着いた。
いかだをつないで長くした船上に、かやぶき屋根のコテージ風の客室がずらりと続く。中央が、レセプションとダイニングになっている。一帯は、うっそうとした緑濃いジャングルで、サルが住み、知らない野鳥の声が飛び交う。毎朝、近くの村から象も水浴びにやって来る。足元は、クワイ川が音もなく悠々 と流れている、そんなロケーションだ。
 
 ここでは、だれもが日常を忘れシンプルな滞在をする。というかシンプルな滞在しかできない。なぜなら電気がないからだ。これはホテル側の配慮だ。電 気がないので、温水シャワーもでない。客室だけでなく、フロントにも厨房にも電気はない。通信機器はどれもつながらない。フロントも電話がないうえ、 ボートがやって来る以外は人の流れもないので、スタッフたちものんびりしたムード。夕方になると、部屋には、灯油ランプのほかにちっとも明るくないか わいらしいバッテリー式のランプが一つ渡される。ホスピタリティは申し分ない。もちろんダイニングもランプがともされ、けっして豪華ではないがロマン チックな夕食となる。水上滞在なので、あまり飲みすぎると危ない。
 
 冷たいシャワーは、僕は寝起きの朝浴びていたが、みんなは、ほのかに水ぬるむ午後が良いと言っていた。客室は、表側だけでなく裏側も川べりに面して いて、その流の緩い浅瀬にオレンジ色のひれをもったけっこう大きい魚が群れていた。僕は、釣竿を持ってこなかったことを後悔した。
 
 電気のない滞在も、初日はみんな困惑したが 2 日目になると慣れ、3 日目は楽しめるようになってきた。幸い暑くも寒くもなく、虫もいなく、快適そのも の。何よりジャングルの中を流れるクワイ川に沿ってなんとも甘ったるい花の香りの空気が流れていて、昼間の雰囲気にはうっとりした。ビールを飲んだり 寝転んだり、まさに日常を忘れさせてくれた。3 日目の夜中ににわか雨が降った。いくつかの部屋は寝ているベッドの上にかなり降り注いだ。11 月の乾季で これだから、雨季の滞在はきっとワイルドなものになるだろう。このホテルでの滞在は、デジタル文明から逃れることができる。