サハラ砂漠のテント (2020-11-16)

ずいぶん前のことですが、モロッコのアトラス山脈ツブカル山の登山を終え、サハラ砂漠へ行ったことがあります。

雪山から荒涼とした景色の中を四駆車に揺られながらひた走る。荒涼とした景色に疲れたころ、ナツメヤシの茂る緑の村が蜃気楼のように現れる。砂漠のオアシス、カスバ(古い城塞)の村だ。赤い大地にこつ然と現れる緑豊かなカスバは美しく、旅人につかの間の休息を与えてくれる。このルートはカスバ街道とよばれ、サハラへ続く観光ルートとしてよく知られている。

暑さ、ほこり、固いシートに我慢の限界が近づくころ、サハラの入り口の宿泊地に到着した。そこは、土産物屋に観光バスが並ぶ観光地だろうと思っていたら、ホテルもロッジも見当たらない。大砂丘以外に何もない。ただ、大型トレーラーが一台我われの到着を待っていた。ほかは、私たちのほかに誰もいない砂漠が広がるだけだった。

その一台の大型トレーラーからスタッフ数名がおりてきて私たちを歓迎してくれた。クーラーボックスから「よく冷えた缶ビール(この地では最上級のサービス)」をいただいているうちに、どんどんキャンプが設営され、またたく間に豪華なベドウィンテント(サハラの遊牧民のテント)が完成した。一人一人に個室が用意され、そこには糊のきいたシーツと枕が備わっていた。

ラクダに乗って散歩へ連れていってもらったり、夜はベドウィンの歌と踊りでもてなしてくれたり。とくに、夕暮れ時の赤い砂漠の山脈が果てしなく続く景色はたとえようもなく美しかった。そして、満天の星空も。サハラを旅する民に思いを馳せる一夜となった。

明けた朝、せっかくの真っ白いシーツと枕、頭も、服も、荷物も全部、黄金色のきめ細かいサハラの砂をうっすらと被った。どうやら、明け方に少し風が吹いたのだろうか。

いまは、インターネットを駆使すれば世界中のほとんどありとあらゆることを知ることができる世の中だ。旅行に関しては、便利だろうが、想定外や行き当たりばったりはすくなくなり、つまらなくなった。PCやメールや携帯電話のない当時は、海外との旅行手配のやり取りは電話かFAXしかなく、いまのように何でもあらかじめ知ることはできなかった。想定外のサハラ砂漠の一夜は、記憶に残る旅の思い出だ。

写真は、古いポジフィルムをデジタルデータで。