山で出会った野生動物たち 1 ヒグマ (2020-08-08)

北海道の山を歩いてきたなら、一度や二度はクマに出会ったことがあると思う。僕も、シーズン中一度や二度は遠目に見たり、至近距離で出くわしたり、ときには間近で吠えられたりしたこともある。怖いけど、怖がっていては山へは行けない。

夏は、登山と同じくらい、渓流つりへ行く。近郊の沢へ一人で渓流つりに入った時、歩いている林道に沿って10mおきくらいに大きなフキを刈り取った跡があった。その跡は、かなり長く続いていたが、こんなシーズン遅れの固く伸びたフキを熱心にとる山菜採りの人もいるものだと、人間の仕業と思い込んでいた。遡行を終えての帰り道、沢から林道のずっと奥のほうに上がり、もと来た道へ歩き始めた時、またしても真新しいフキを刈り取った跡に出くわした。ヒグマの仕業だった。

そもそも、山に入る時には車は止まっていなかったうえに誰にも会わなかったし、ふつうに見ればヒグマがフキをかじったばかりなのが、わかるはずなのに。

こともあろうに、ヒグマの食事の後をしつこく追い続けた馬鹿でのうてんきな釣り人に、きっとそのヒグマも困惑したことだろう。つい先ほどしたばかりの湯気の立つような大きな糞を道の真ん中に見た時、ようやく状況に気づいた。僕は、近くでじっと様子をうかがっているだろうそのヒグマに気づかないふりをして、後ろを振り返ることもできずに、帰り道を急いだ。

写真は、知床のヒグマ。ここではかなりの至近距離で遭遇することがある。
ニコンD3とAI Nikkor ED180mm F2.8Sにて撮影。