バンクーバー島のコンドミニアム (2020-06-22)

どこへ行って何をするか、ふつう旅にはそんな目的みたいなものがある。主催するものとしては当然だ。しかし、この時はさして大きな目的を持たずに、そんないいかげんな旅に付き合ってくださるお客さま3名とともに、カナダのバンクーバー島へ出かけた。

季節は秋で、きっと素晴らしい紅葉や遡上するサケが川を埋め尽くすだろうと期待した。そのとおりで、川にはサケが遡上し、それをねらい捕食する母と子のグリズリーを間近にし、少しでも近づいて写真を撮ろうとするメンバーに冷や冷やしたりもした。どこへ行っても日本とは比較にならない雄大な自然があり、そこに息づく野生も素晴らしい。あまりの人口密度の低さと長い距離に、ドライブでの移動中は、トラブルが起きないように緊張したりもした。ハイキングでは、やさしいコースを選んだにもかかわらず、コースはワイルドで長く、やはり緊張した。冷涼多雨の気候、はるかスケールの大きさと人口密度の少なさから、カナダ西部で山に入るには、相当の準備が必要だと思った。

美しい港町ビクトリア郊外のマリーナに面したコンドミニアムを4人で借りた。自然も大きければ、こちらもデカかった。北米スタイルのコンドミニアムは豪華で大きく、バスルーム付きの部屋が一人にひとつずつあたった。リビングには最新型のサラウンドDVD付き大型テレビ、暖炉、大理石のカウンター、大型冷蔵庫、システムキッチンには考えうる限りの設備が備わっていた。ステーキグリルの設置されたバルコニーからすぐ目の前は、穏やかな内湾に面した小さなマリーナ。海まで徒歩3分もかからない距離だ。

つかの間の優雅な別荘ライフが始まった。近くへ散歩に出かけてシカに出くわしたり、穏やかな海でカヌーを漕いでアシカと遊んだり、ビクトリアの街へ遊びに行ったりして過ごした。

午後は毎日、買い出しにスーパーへ出かけた。食べきれないほどのカキをフライにしたり、グリルにしたり、ステーキを焼いたり。港で活きた大きなダンジネスクラブ(ハサミの大きな立派なカニ)を買ってゆでたりもした。毎晩が、最後の晩餐だ。酒の神バッカスもあきれるほど、ワインの空きビンが何本も転がった。ほとんど僕が飲んだことにされたが、さすがに僕だけでは飲みきれない空きビンの本数だった。どこかへ帰る必要のないコンドミニアムの気軽さと、何しろ翌日の決まった予定がないものだから、みんなでしっかり飲んだ。なんていいかげんで気ままな旅行なんだろう。

帰国便を待つバンクーバー空港で、そんな旅の反省会をみんなで開いた。ナパバレーの豊潤な赤ワインのせいで、またつい飲みすぎてしまった僕は、フラフラで搭乗したようだ。夢からさめたのは、まもなく成田空港到着のアナウンスの時だった。(2015年9月)