観光客でにぎわうヨセミテ渓谷には、バックパッカー向けのキャンプ場以外に四つの宿泊施設がある。
最高級マジョシティック ホテル(旧アワニーホテル)⇒全米の憧れ。重厚壮大な歴史的建造物。ダイニングが最高。夢のようなひと時。本館はクラッシックなので部屋はアメリカにしてはやや狭い。備品は、伝統的で最高級。ギフトショップもおすすめ。
ヨセミテロッジ⇒値段は高級だが、中身は普通のアメリカンモーテル。部屋は広い。ヨセミテフォールが至近。何かと便利。一週間滞在すると、かなりぜいたくな気分。
カリービレッジ⇒ヨセミテ国立公園最初の宿泊施設。値段は高級。日本発旅行会社ツアー想定外の宿泊施設。間違いなく反乱がおきるレベル。キャンバス張りの質素な簡易テントが並び、ワイルドな滞在を体験できる。寝具あり。電源あり。トイレ、シャワー共同。深夜、場内にてメンバーがクマに遭遇。ビレッジ内に、スーパー、登山用品店、ピザ、グリル、バー、ピッフェレストラン、ラウンジ、プール等の施設有り。
短期滞在向き。
そして、ハウスキーピングキャンプ⇒通称、難民キャンプ。日本発ツアー問題外。値段は日本の高級ホテル並みだが、キャンバス張りの簡易テント。入口はヒラヒラのキャンバス地のカーテンを蝶々結びで。レンタルのテント村だ。寝具なし、電源あり、たき火OK 、自炊OK。ミニスーパー、ランドリー、共同シャワーなど現代文明のミニマムな施設完備。名称と真逆で、ハウスキーピング(室内清掃)のサービスは一切ない。
ハウスキーピングキャンプの地下はリスとアライグマの巣窟で、常時これらの野生動物が足元をうろちょろする。かわいいと思ったら大間違いで、この小動物たちは、常に僕たちの食糧を狙っているわるいやつらだ。絶対に油断してはいけない。
僕らは、ついて早々、見張り役を決めつつも5分くらいだろうか、ちょっとした油断から目を離してしまった。さっそく、スーパーで仕入れたすぐれものの発泡スチロールのクーラーボックスの角をアライグマにかじられてしまった。ヨセミテ初日以後1週間、痛々しく負傷したクーラーボックスでの食料保管となる。また、テント内で酔いつぶれて寝ている僕の枕もとで、ごみ箱の中のポテトチップスの空き袋をアライグマがあさっていたことがある。
ヨセミテに来るゲストは、キャンプのような非日常的な体験がしたいからなのだろう、そんなハウスキーピングキャンプは、人気が高くいつもいっぱい。ヒラヒラカーテン蝶々結びのテントには、鍵とかセーフティボックスのようなセキュリティも、プライバシーもない。昼間、めいめい遊びに出かけるわけだが、物が無くなったりするようなことはない。ヨセミテ国立公園に限らず、米国の国立公園は、入園料や滞在費が高い裕福層の訪問地であり、出入りには公園事務所のゲートを必ず通過しなければならず、米国でもっとも治安の良い観光地といえる。リスとアライグマのわるいやつらに荒らされないように、食料は必ずフードボックスに保管すること。これだけ守れば、あとは心配ない。
自炊のメニューは、朝は日本から持ち込んだご飯とみそ汁、おかずで和定食。ソーメンやインスタントラーメンも時々。昼と夜は肉。ヨセミテ滞在では、どうしても野菜不足になりやすい。大抵、サラダは乾燥していてパサパサでがっかり。肉に疲れ、ああ日本のみずみずしいサラダが食べたいといつも思っていた。そして、野菜不足になりがちなヨセミテ滞在の解決策を見つけた。それはビレッジスーパーに売っているレタスだった。日本の野菜は最高レベルだと思うが、レタスだけはアメリカのほうが勝っていた。日本のレタスって小さいうえに中身スカスカだなっていう軽さだが、こちらはアメリカンサイズで大きいのはもちろん、それよりもずっしりと重いみずみずしさの塊は、ナイフで割ると水がこぼれるような感じ。レタスで水分補給になるくらい。凝ったサラダをつくるのは面倒だし、他に魅力的な野菜はビレッジスーパーにはそろっていないので、レタスオンリーでいく。
ずっしりしたやつをメロンやスイカのようにばっさり適当なサイズに切ってかじる。ドレッシングは、イタリアンやシーザーなどの濃いのが合うようだ。バーボンのつまみにもなった。気に入ったので毎日相当食べた。大げさだが、これほどレタスを食べたことはないし、何かヨセミテ滞在の弱点を克服したような気がした。
ハウスキーピングキャンプでの僕の楽しみは、キャンプ生活とたき火、朝の空気、マーセド川、ヨセミテ滝とロストアロースパイヤーの絶景、ヨセミテ渓谷滞在の魅力が全部揃っていることだろうか。
写真は、エルキャピタンの威容。